心理学

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心理学(しんりがく、英語:Psychology)は、一般にと呼ばれるものの様々な働きである心的過程と、それに基づく行動を探求する学問である。

概論[編集]

現在の主要な立場

科学的経験主義の立場から観察実験によって探求を推し進めようとする実験心理学精神分析の影響下に発展した臨床心理学という情報処理装置と解釈する認知心理学人文科学哲学からアプローチする人間性心理学などの立場がある。


学際

その対象は、認知記憶行動感情パーソナリティ発達など広範囲に及ぶため、近年では他の学問領域との連携も始まっている(学際)。例えば、心理学では仮説の域を超えられなかったものが、脳科学の知見によってその妥当性が検証出来るのではないかという期待がある。又、ヒューマンエラーについての知見が、人間工学分野で取り入れられたりするなどの試みがある。こうした動きは今後も加速すると思われる。[1]

歴史[編集]

「心理学」としての歴史[編集]

心理学が1つの独立した科学分野として創成されたのは、19世紀後半(一般的には1879年とされる)にヴィルヘルム・ヴントライプチヒ大学にて心理学専門の研究室を構えた時とされると説明される事が多い。しかし、それまでにもヤング=ヘルムホルツの三色説など、今日の心理学の一部となる研究は既に行われていた事も忘れてはならない。心理学独立以前の研究はマッハの主観的明るさの研究など物理学者哲学的考察によるものが多い。心理学は直接的には哲学から派生したと見なす事が出来る。

独立した科学分野としての心理学は、感覚知覚など比較的「低次」な機能を扱う知覚心理学と、記憶言語など比較的「高次」と言われる機能を扱う認知心理学に大別される。

生理学からの発展[編集]

を損傷すると精神機能に異変が生じる事から、「脳が感情思考などの精神現象を生み出す中枢であるとみなし、を構成する神経系を調べる事で精神現象を解明出来る可能性がある」との立場が生まれた。この発想自体は古くはデカルト心身合一の問題として言及しているが、実験的に調べられるようになったのは19世紀以降である。

19世紀ブローカウェルニッケらの失語症脳損傷の関係調査により、言語中枢とされる脳部位言語野が推定された。この研究により、言語を扱う精神機能という生理的土台によって生じる事が明らかにされた。脳損傷と精神機能失調との関係調査は20世紀初頭の第一次世界大戦以降、戦争を損傷した患者治療の過程で大きく進んだ。1960年代からはCTにより脳血管障害患者を非侵襲的に調べられるようになり、さらに進展した。

イワン・パブロフ1902年唾液腺の研究過程で俗にパブロフの犬とよばれる条件反射を発見した。この研究を嚆矢として、正常な動物における生理的現象と精神現象の関係が論じられるようになった。この分野はパブロフの犬のような巨視的なものから薬物投与、神経細胞の分子生物学的解析など様々なものがあるが、全体的には神経細胞の振る舞いを調べるものが多い。 1960-70年代にかけて急速に進展した視覚伝導路の神経細胞の特性研究は知覚心理学に重大な影響を与えた。両者は視覚刺激を見せて反応をとるという共通の手法を持ち、反応を見る対象が神経細胞という微視的なものか、ヒトなどの動物全体という巨視的なものか、という点で違うと見る事も出来る。 また海馬の神経細胞で発見された長期増強などのシナプス可塑性は、記憶の生理的基盤であると期待され、認知心理学に少なからぬ影響を与えた。

1980年代以降、神経細胞の活動を観測する脳機能イメージングの手法が増えた結果、脳機能局在論による神経機構の解明が試みられており、少なからず成功を収めている。ただし、神経の機能の説明が精神物理学の知見の範囲を出ず、「精神現象を十分説明できる」と表現するにはまだ程遠い状態である。

生理学と心理学の関係は、物理現象から精神現象が生起するのかという心身問題を常にはらんでおり、哲学上の重大な未解決問題となっている。神経機構の数理的解析は情報工学に影響を与えている。又、心理学が社会的に注目されるようになるにつれ、研究成果に基づかない右脳・左脳論ゲーム脳など擬似科学が出現してしまった。

病理学からの発展[編集]

医学の分野において、精神疾患患者の治療という応用的な要請から、疾患の原因となる精神の構造の解明を試みる精神病理学が起こった。

ベトナム帰還兵の間で精神疾患を起こすものが増加し、社会問題となった。特に快楽殺人などセンセーショナルな事件が起こったため、広義の精神疾患が広く社会に認知されるとともに、PTSDなど概念が確立し研究が急速に発展した。

1970年代より精神疾患に対する薬物療法の研究が進み、統合失調症双極性障害に著効を顕した。これは神経細胞における受容体を介したシグナル伝達研究と並列に進展し、てんかん治療での外科的病巣切除とあわせて精神病理学を生理学と結びつける土台が作られた。

高齢化が現実の問題となった1980年代から1990年代以降、痴呆症に関する研究も数が多くなった。この分野でも神経の可塑性減少や細胞死など生理学的知見と密接に対応をつけた上で研究が進んでいる。

この分野は、特にPTSD研究など精神疾患の定義が拡大して以降、単なる悩み相談や占いに近いレベルの通俗心理学が流布されるケースが例が多くなった。又、認知症に関連して「脳の老化」といった題材も注目されるようになり、これに関連する通俗心理学も少なからず見かけられるようになっている。

動物行動学からの発展[編集]

ヒト以外の動物の行動の研究である動物行動学は、実験心理学と手法の一部や生理学に対する関係を共有して発展してきた。特に(ヒトの)心理学(と動物の行動学)との対比において、比較行動学という訳語が当てられる事もある。

狭義の動物行動学である、野外で野生の状態を観察する生態学については、心理学とは直接の関係を持たず、ヒトの機能の進化の過程における生態学的妥当性の検討、あるいは社会的行動の人間との対比において関連づけられる。

広義の動物行動学である、研究室内でラットやチンパンジーなどを用いる研究は心理学と密接な関係を持ち、多くの手法を共有する。この分野はパブロフの条件反射研究に強く影響され発展してきたもので、動物の研究では古典的条件づけオペラント条件づけの研究に発展し、ヒトを対象とした実験心理学でも内観法を徹底的に排除するなどの影響を与え、行動主義心理学と呼ばれる一派が成立した。現在の実験心理学の手法は基本的にこの影響下にある。

言語学からの発展[編集]

ノーム・チョムスキー

教育学からの発展[編集]

言語や思考の能力及びその成長発展を評価する必要から、現在の心理学の領域へと踏み込んだ。

近年は、学童の精神保健に関する領域においても教育心理学の立場から扱われるが、前述の思考能力に関するものとは元々の系統が異なっている事に留意が必要である。

情報工学との接近[編集]

脳を一種のコンピュータとみなし、精神機能および脳機能を情報工学的に解析するという立場が現れた。

現在[編集]

現在、心理学と呼ばれうる、あるいは関連するとみなされる学問分野は非常に多岐にわたっているが、それは多岐にわたる分野で独立に、ないし相互に影響しあって「心理学」と呼びうる共通のドグマを志向しているからという事が出来る。これらの学問分野はいずれも感覚知覚行動知能感情などを扱っているが、これらは独立に機能しているのではなく、「心」を構成する要素として不可分であり、これらの一部を研究対象とする学問は心理学の範疇に含まれると見なされる事が多い。この事から、心理学と呼ばれうる分野は多岐にわたり、既存の心理学研究とほとんど関係なく新たな「心理学」が独立に創始される事も多く、漢字二字に心理学をつければ何でも心理学になると揶揄されるほどの心理学乱立状況を招いている。

分類[編集]

心理学者[編集]

基礎心理[編集]

応用心理学[編集]

さまざまな心理学の流れ[編集]

誤解[編集]

  • フロイト精神分析ユングの理論などは、心理学アカデミズムの外側で生まれ育ったものであり、また半世紀にわたって科学的心理学の立場から多くの批判がなされてきた。それにも関わらず、「フロイトが心理学の祖である」、「精神分析こそが心理学の基礎であり、本流である」というような、時代錯誤的な誤解が存在する。
  • こうした通俗的な理解を、ポピュラー心理学ないし通俗心理学と呼ぶ事がある。他方、このような誤解は心理学に対する社会の要請の現われであるとして、無視すべきでないという意見もある。


関連項目[編集]

関連書[編集]

  • サトウタツヤ, 高砂美樹、『流れを読む心理学史―世界と日本の心理学』有斐閣, 2003, ISBN 4641121958 (含 日本の心理学史)
  • 梅本尭夫『心理学史への招待―現代心理学の背景』サイエンス社, 1994, ISBN 4781907202 (含 日本の心理学史)
  • D. シュルツ『現代心理学の歴史』培風館, 1986, ISBN 4563055522
  • アンディ・ベル『論争のなかの心理学 どこまで科学たりうるか』新曜社,2006, ISBN 4788509954

脚注 / 出典[編集]

  1. 将来的には心理学は発展的に解体されていくべきだとする考えもある。しかし、一方では、人間性心理学のように心理学だからこそ研究できる分野も存在するという考えもある。

外部リンク[編集]

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