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<nowiki>'''生命の起源'''(せいめいのきげん)は文字通り[[生命]]の最初の誕生を指す。いかにして生命が誕生したのかという仕組みを科学的に、もしくは非科学的に説明しようとする試みが多く行われてきた。(ここでは主に科学的なものを挙げる)多くの科学的な仮説は[[ダーウィン]]の[[進化論]]を適用することによって、単純な原始的な生命の中からより複雑な生命が進化することを予想している。究極的にはわれわれヒトの誕生(人間の存在)を分子生物学的に説明するという壮大な試みを内含することもある。
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[[rxy]]=[[森谷辰也]]=[[wiki:LTA:ASPE|LTA:ASPE]]、 [[wiki:LTA:DCHANCE|LTA:DCHANCE]]、[[wiki:LTA:SASHO|LTA:SASHO]]という動かせない事実。<nowiki>'''生命の起源'''(せいめいのきげん)は文字通り[[生命]]の最初の誕生を指す。いかにして生命が誕生したのかという仕組みを科学的に、もしくは非科学的に説明しようとする試みが多く行われてきた。(ここでは主に科学的なものを挙げる)多くの科学的な仮説は[[ダーウィン]]の[[進化論]]を適用することによって、単純な原始的な生命の中からより複雑な生命が進化することを予想している。究極的にはわれわれヒトの誕生(人間の存在)を分子生物学的に説明するという壮大な試みを内含することもある。
  
 
== 概略 ==
 
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2020年1月8日 (水) 05:25時点における版

rxy=森谷辰也=LTA:ASPELTA:DCHANCELTA:SASHOという動かせない事実。'''生命の起源'''(せいめいのきげん)は文字通り[[生命]]の最初の誕生を指す。いかにして生命が誕生したのかという仕組みを科学的に、もしくは非科学的に説明しようとする試みが多く行われてきた。(ここでは主に科学的なものを挙げる)多くの科学的な仮説は[[ダーウィン]]の[[進化論]]を適用することによって、単純な原始的な生命の中からより複雑な生命が進化することを予想している。究極的にはわれわれヒトの誕生(人間の存在)を分子生物学的に説明するという壮大な試みを内含することもある。 == 概略 == 人類は古くから[[神話]]、[[宗教]]、[[科学]]などによって問いかけを行ってきたが、最終的な解答はいまだ得られておらず、ここでは生命の起源に関する簡単な歴史と[[自然科学]]における様々な学説を羅列するにとどめる。具体的なレベルでは諸説あるものの、原始地球の[[海]]において、[[海水]]に溶けた[[有機物]]の化学進化を通じて最初の生命が誕生したというのが、現代科学において最も有力な学説である。 生命の起源を論ずるためにはまず[[生命]]や[[生物]]を定義する必要がある。しかしこれらを明確に定義することは難しい。「生命とは生物に備わっているもの」であり「生物とは生命をもつもの」であるという循環に陥ってしまうためである。そこで自然科学では生命・生物がもつ性質を以下の3点をもって定義とすることが多い。 * 外界および[[細胞]]内を明確に区別する単位膜系を有する。 * 自己を複製する能力を有する。 * 外界から物質を取り込み、それを[[代謝]]する系を有する。 「生命はどこからきたのか」という問いかけは時代や思想、技術などの背景によって観点が異なっている。例えば[[古代ギリシア]]の[[アリストテレス]]が記した『動物誌』ではミミズやウナギは泥などの無生物から自然に発生するという説明がなされている。この説は当時としては非常に詳細な観察に基づいているが、生命現象には物質以外の何かが働いているという[[生気論]]的考え方となっている。[[旧約聖書]]では『[[創世記]]』の[[天地創造]]にその記述があり、そこでは創造主である唯一神である[[アブラハムの宗教]]の神によって無生物から生物が創造されたとされる。他の地域でもこの問いかけに対する回答の多くは[[宗教]]や[[神話]]によって説明されている。 近代に入って発展した[[自然科学]]では[[物理学]]による説明が試みられている。まず[[顕微鏡]]の発明により、動植物の[[細胞]]や[[微生物]]が観察され、すべての生物が細胞からできているという[[細胞説]]が確立され、[[ルイ・パスツール]]らによる[[自然発生説]]の否定により、現在地球上に見られる[[生物]]は、生物からしか生まれないことが証明された。これらの知見により「生命はどこから生じたのか」という問いかけが自然科学における命題となる。また、ヒトのような複雑な生物がどのようにして生じうるのかという問題には、[[進化]]の概念によって手がかりが与えられた。進化とは生物が多様化することであり、最初の生物は非常に単純なものであったと考えることを可能にした。現在の自然科学では最初の生命は非常に単純であったという前提で研究が行われている。 生物の原子組成は海水のそれと類似しているため、生命は海中に解けた有機物の'''化学進化'''によって誕生したという説が有力である。ただし、[[パンスペルミア仮説]]のように地球外で生じた生物に由来するという説もある。また、化学進化説においても、最初のきっかけとなる物質は何であったか、誕生の場所はどこか、など諸問題に関して複数の説がある。現時点では生命の誕生を再現することが非常に困難であり、また[[化石]]標本による検証も難しいため、自然科学における最大の難問の一つと言える。 == 自然発生説とその否定 == 生命の起源に関して体系的に述べられた最初の学説は[[紀元前4世紀]]に[[アリストテレス]]によって唱えられた『[[自然発生説]]』である。自然発生説は現在では否定されているが、2000年間に渡って支持されてきた説である。自然発生説の主旨は「生物は無生物から自然に生ずる」というものである。 === アリストテレスの自然発生説 === アリストテレスが記した『動物誌』や『動物発生論』によると、[[昆虫]]や[[ダニ]]などは、親以外からも露や泥やゴミや汗から自然に発生し、[[エビ]]や[[ウナギ]]といった動物らも泥から生じるとされる。アリストテレスは解剖や詳細な観察に基づきこの説を立てているが、[[生気論]]に依っている点で現在の自然科学とは異なる。 === レディの実験 === [[1665年]]にイタリア人医師[[フランチェスコ・レディ]]によって、長らく支持されていた自然発生説を否定する実験が行われた。レディは以下のような実験を行った。 # 2つのビンの中に魚の死体を入れる。 # 一方のビンはふたをせず、もう一方のビンは布で覆ってふたをする。 # そのまま、数日間放置する。 # 結果、ふたをしなかったビンにはウジがわくが、ふたをしたビンにはウジはわかなかった。 この実験の素晴らしいところは、フタをしたビンのほかに、フタをしなかったビンを用意したことである。この方法は[[対照実験]]と呼ばれ、現在でも応用がなされている。本実験と対照実験の中で違いを見つけていくことは、[[科学的方法]]に基づいたあらゆる実験の基礎とされる。 しかしながら、この実験では目に見えない細菌などの微生物が発生した可能性を否定できない点で不完全であった。またビンや布が真に生命を有していないのかが論じられていない。他にも多くの間違いは指摘できるが、[[顕微鏡]]が発明されていない当時では[[微生物]]の存在を確認することが困難であった。事実、微生物が[[アントニー・ファン・レーウェンフック]]によって発見された後、微生物の自然発生説に関する論争は避けられなかった。 === パスツールの実験 === この後、衛生学的な必要性から微生物学が発展し、無菌状態、即ち生命の存在しない状態を作り出すことが可能になる。[[ルイ・パスツール]]は微生物学の発展に貢献した中心的な人物であり、[[1860年代]]に微生物の発生について調べるために、白鳥の首フラスコを用いた実験系を考案した。実験の概要は以下の通りである。 # 無処理の肉汁エキスを入れたフラスコを二つ用意する。 # フラスコの首を白鳥の首状に変形させ、首の途中にある程度の水分が溜まる様に加工する。 # 肉汁を入れたフラスコの一方を煮沸する。蒸気は白鳥の首を伝って外部に出る。 # フラスコ内部はこの段階で無菌となる。 # 煮沸しなかったフラスコでは腐敗が起こるが、煮沸したフラスコは長期間放置しても腐敗しない。 # ただし白鳥の首を折ると腐敗が起こるようになる。 この実験は、空気中に存在する[[カビ]]や[[細菌]]の[[胞子]]が白鳥の首にトラップされてフラスコ内部まで侵入しないことを仮定している。これによって自然発生説を否定する上で決定的な証拠が提示され、アリストテレス以降の宗教的な問題も含まれた科学的論争に決着がついた。この段階で初めて、生命の起源に関する科学的な論争が始まる。 ちなみに、パスツールは自然発生説の否定を実験的に行なっただけで生命の起源に関する実験は行なっていない。これは、生命の起源に関する問題は、実験的に証明できるものではないと考えたからだと言われている。詳細は[[自然発生説]]を参照。 == 化学進化説 == 化学進化説は[[無機物]]から[[有機物]]がつくられ、有機物の反応によって生命が誕生したという説であり、現在の自然科学ではもっとも広く受け入れられている。有機物の生成、蓄積を説明する実験や説としては、ユーリーとミラーによる実験に始まり、バーナルらによる表面代謝説の他、彗星からもたらされたなどの説がある。化学進化説を最初に唱えたのは[[ロシア]]の科学者[[オパーリン]]である。 パスツール以降、[[1922年]]にオパーリンが『地球上における生命の起源』と題する本を出版するまで、生命の起源に関する考察や実験が行われたことはなかった。この本は生命の起源に関する科学的考察のさきがけとなった。彼の説は『[[化学進化説]]』と呼ばれる他、『スープ説』、『コアセルベート説』等と呼ばれている。これはこれらの『化学進化説』が生命の起源に関する段階で多くのものを含んでいるからである。化学進化説は最も理解が簡明かつ、基本的な生命発生のプロセスであり、これらの細かなプロセスごとに様々な仮説が提示されているが、その基本は化学進化に依る。オパーリンの生命の起源に関する考察は以下の要点にまとめられる。 # 原始地球の構成物質である多くの[[無機物]]から、低分子[[有機物]]を生じる。 # 低分子有機物は互いに重合して高分子有機物を形成する。 # 原始[[海洋]]は即ち、こうした有機物の蓄積も見られる『有機的スープ』である。 # こうした[[原始海洋]]の中で、[[脂質]]が水中でミセル化した高分子集合体『[[コアセルベート]]』が誕生する。 # 『コアセルベート』は互いにくっついたり離れたり分裂したりして、[[アメーバ]]のように振る舞う。 # このようなコアセルベートが有機物を取り込んでいく中で、最初の生命が誕生し、優れた[[代謝|代謝系]]を有するものだけが生残していった。 この化学進化説を基盤として、生命の起源に関する様々な考察や実験が20世紀に展開されることとなる。なお、化学進化説で論じられている初期の生命は有機物を取り込み代謝していることから『従属栄養生物』であると考えられている。([[栄養的分類]]を参照) === ユーリー - ミラーの実験 === [[Image:ミラーの実験.JPG|thumb|300px|right|ミラーの実験のイラスト]] オパーリンの唱えた『化学進化説』ではその第一段階として『窒素誘導体の形成』が行なわれるとされていた。そのことを実験的に検証したのが[[1953年]]、[[シカゴ大学]][[ハロルド・ユーリー]]の研究室に属していた[[スタンリー・ミラー]]の行なった実験である。その実験は『[[ユーリー - ミラーの実験]]』として知られており、生物学史に残る最初の『生命の起源』に関する実験的証明である。 ユーリー - ミラーの実験の趣旨は以下の通りである。 # 当時、原始地球の大気組成と考えられていた[[メタン]]、[[水素]]、[[アンモニア]]を完全に無菌化したガラスチューブに入れる。 # それらのガスを、水を熱した水蒸気でガラスチューブ内を循環させる。 # 水蒸気とガスが混合している部分で火花放電(6万ボルト)を行う(雷が有機化の反応に関係していたと考えている)。 # 1週間後、ガラスチューブ内の水中に[[アミノ酸]]が生じていた。 この1週間の間に、[[アルデヒド]]や[[青酸]]などが発生し、アミノ酸の生成に寄与したと考えられている。ユーリー-ミラーの実験で用いられた大気組成は、当時考えられたものであり、現在考えられているものとは若干異なっている。 [[アポロ計画]]によって持ち帰られた[[月の石]]の解析結果から、地球誕生初期には[[隕石]]などの衝突熱により、地表は[[マグマ]]の海ともいえる状態にあり、原始大気の組成は[[二酸化炭素]]、[[窒素]]、水蒸気と言った現在の火山ガスに近い酸化的なガスに満たされていたという説が有力になった。よって、還元的環境を基礎とするユーリー-ミラーの実験を支持しない研究者も大勢いるが、逆に、この実験で発生した4,5種のアミノ酸([[グリシン]]、[[アラニン]]、[[アスパラギン酸]]、[[バリン]])を基準に[[遺伝暗号]]が[[蛋白質|タンパク質]]から生まれたとされる[[GADV仮説]](後述)が唱えられている。彼らの行なった実験は、今なお生命の起源に関する考察に波紋を投げかけている。 なお、ユーリー-ミラーの実験の応用として、放電や加熱以外にも様々なエネルギー源(紫外線、放射線など)が試験され、その多くの実験が有機物合成に肯定的な結果を反映している。<BR>  簡単な物質から複雑な有機分子が生成することを示した点でユーリー - ミラーの実験は大きな意義を持つが、生命の発生との関連では、[[ホモキラリティー]]、即ちアミノ酸を例にとると、どの様にL-アミノ酸が選択されたかという問題が次に重要な問題になる。 === 表面代謝説 === [[1959年]]、[[ジョン・バーナル]]によって[[粘土]]の界面上でアミノ酸重合反応が起きるとした『粘土説』が提唱された。何らかの界面は化学反応が起き易くなっており、化学反応の触媒としての機能を界面が有することは当時から良く知られていた(詳しくは[[酵素]]の項を参照)。この説自体は、[[赤堀四郎]]によって提唱された『ポリグリシン説』を基にしている。 こうした界面上で有機物が発生し、それらがポリマーに進化していく様子をさらに具体的に論じたのが[[1988年]]発表の『[[表面代謝説]]』である。論文の筆者は[[ドイツ]]人[[弁理士]]ギュンター・ヴェヒターショイザー(G.Wachtershauser)である。表面代謝説の主な趣旨は以下の通りである。 * [[黄鉄鉱]](FeS<sub>2</sub>)表面で有機物の重合反応を含めたあらゆる化学反応が発生した * 初期の生命は単位膜によって覆われず、'''黄鉄鉱表面に存在する代謝系が生命であった''' * 黄鉄鉱界面上に発生した代謝系は独立栄養的であり、'''最初に生まれた生命は[[栄養的分類|独立栄養生物]]である''' * 黄鉄鉱界面上で発生した、イソプレノイドアルコールは[[古細菌]][[脂質]]を構成する物であり、'''単位膜によって覆われた最初の生命は古細菌である''' ほか、多くの主張が見られるが、単位膜系を有しない点、自己複製能力を有しない点で、表面代謝説は生命の定義から逸脱する。しかし、生命の定義というものを再認識させたと言う点で興味深い主張である。また、オパーリンの化学進化説の主張によると、初期の生命体は有機物スープを資化していった従属栄養生物だったが、表面代謝説では[[炭酸固定]]を行なった独立栄養生物であるとの主張がなされている。その証拠として、以下の反応があげられる。 ギ酸生成式 * [[二酸化炭素|CO<sub>2</sub>]] + [[水素|H<sub>2</sub>]] → [[ギ酸|HCOOH]] ([[標準自由エネルギー変化|G<sub>0</sub>']]= 30.2kJ/mol) この反応は脱エルゴン反応でありエネルギーの外部からの投入を要求する。しかしながら、黄鉄鉱上でのギ酸生成反応は以下の式となる。 * [[硫化鉄|FeS]] + [[硫化水素|H<sub>2</sub>S]] + CO<sub>2</sub> → FeS<sub>2</sub> + [[水|H<sub>2</sub>O]] + HCOOH (G<sub>0</sub>'= -11.7kJ/mol) 上記の式は発エルゴン反応であり、黄鉄鉱上で有機物の生成がおきやすいことを示している。 さらに、こうした有機物生成反応のみならず[[グリセルアルデヒド三リン酸]]および[[ジヒドロキシアセトンリン酸]]は、[[リン酸]]基(負に荷電している)が黄鉄鉱界面(正に荷電)に吸着され、配向を保ったお互いの分子が重合するという反応が発生し、生成物としてリン酸トリボースという、そのまま[[デオキシリボ核酸|DNA]]や[[リボ核酸|RNA]]の材料となる糖新生反応が起きる。このトリボースにイミダゾール環である[[プリン (化学)|プリン]]、[[ピリミジン]]塩基が結合することによりTNA(トリボ核酸)が生成し、DNAやRNAの雛形となる。グリセロリン酸を基点として各種[[アミノ酸]]が生じるモデルも提唱されている。 膜脂質については、前述のイソプレイノイドアルコールの生成モデルがある。イソプレノイドアルコールは脂肪酸に比べて、界面に吸着しやすいため重合反応が見られる。極性脂質誕生以降、ある濃度で脂質がミセル化し、同時に生じたRNA、DNA、タンパク質なども同時に遊離し、そうしたミセル化した脂質の袋こそが、祖先型の古細菌であるとヴェヒターショイザーは主張している。 表面代謝説は、一見非常に理論的で明快な結論を引き出しているようだが、以下の説明が不十分であるために不完全な理論であると言える。 * 古細菌から[[真正細菌]]への分化の原因 * [[転写]]、[[翻訳 (生物学)|翻訳]]の成立 * [[能動輸送]]系の成立 * 溶媒中で効率の良い触媒([[酵素]])の形成過程 しかしながら表面代謝説は[[深海熱水孔]]周辺に黄鉄鉱が多く見られることから、熱水孔を生命の起源と支持する学者の間では人気のある仮説の1つである。事実、黄鉄鉱上で酵素の関与無しに代謝系が生じる可能性を示唆した点は非常に興味深い。また、生命の定義にも波紋を投げかけた点において、生命の起源に関する説得力ある仮説として支持され続けている。 == 生物進化から生命の起源へ == 上記の生命の起源に関する考察や実験は、その全てが無機物から生命への化学進化を論じたものであり、1980年代まではそのような流れが支配的であった。しかしながら、[[1977年]]カール・ウーズらによって第3のドメイン[[古細菌]]が提案され、古細菌を含めた[[好熱菌]]や[[極限環境微生物]]の研究が進行するにつれ、生命の起源に近いとされる生物群の傾向が明らかになってきた。 生命誕生以降の生物進化から生命の起源を探る試みは、化学進化とは異なり非常に多くの生命のサンプルを要する。多くのサンプルを用いながら、[[真正細菌]]、古細菌、[[真核生物]]の[[進化系統樹]]を描くことから、そうした試みが始まったと言える。進化系統樹を描く試みは従来、低分子のタンパク質アミノ酸配列([[フェレドキシン]]、[[シトクロム|シトクロムc]]など)を元にしたものが多かったが、[[デオキシリボ核酸|DNA]][[シークエンシング]]法や[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]法の確立などにより、より大きなデータを取り扱うことが可能になってきた。そうした生物の系統関係を論じるうえで最も一般的なものが[[16S rRNA系統解析]]である。また、コンピューターの計算能力の発展もその一翼をになった。 16S rRNA系統解析による3ドメインを含めた系統樹は、生命の起源が単系統であるか否かを論じるには当たらない[[無根系統樹]]である。しかしながら複数のDNA配列データを基に系統樹を作成すると系統樹に根をつけることに成功した(これは、生命の起源が単系統であることを系統樹上で意味する。こうした生物を[[共通祖先]]と言う)。そのような3ドメイン分子系統樹によると、'''共通祖先に近い原始的な生物は好熱性を示すものが多く見られる'''ことが判った。 例えば、真正細菌の根に一番近いのは''Aquifex''属(超好熱性水素細菌)や''Thermotoga''属(超好熱性水素細菌)である。そして古細菌は真正細菌に比べて系統樹の長さが短く(進化速度が遅く)原始的な性質を反映したが、根に近いものは好熱性のものにしめられていた(''Thermococcus''属、''Thermoproteus''属など)。また、好熱菌は概してゲノムサイズが小さい傾向にあり、これは'''共通祖先のゲノムサイズも小さいものであった'''ことを示唆している。 3ドメイン分子系統樹の共通祖先はある時期に真正細菌および古細菌に分岐したことを示しているが、その祖先がいずれの性質を示していたのかと言う命題に対しては中立的である。真正細菌および古細菌は同じ[[原核生物]]であるものの、[[生体膜]][[脂質]]の構造や[[転写]]、[[翻訳]]機構などの相違により、別系統の生物と言わざるを得ない。'''どのようにして、なぜ、共通祖先が真正細菌と古細菌に分かれたのか'''は今なお良く分かっておらず、今後の研究が待たれる。 なお、分子系統樹を用いた共通祖先を探る試みは定量的であるものの、別の遺伝子を使用すると時として真正細菌の枝の中に古細菌が入ったり、真核生物の枝の中に古細菌が入ったりと、統一的な見解が得られているわけではない。これは、[[遺伝子の水平伝播]]が盛んに起こっていると考えられている原核生物間の遺伝子のやり取りが影響していると考えられており、'''分子系統樹のみに依存すると本質を見誤る'''ことを示唆している。 古細菌、真正細菌の[[細胞内共生説]]、原始生命体のゲノムサイズや性質については『[[原始生命体]]』の項を参照。 === 化学合成独立栄養生物群の世界 === 生命の起源の考察の中に、最初の生命は独立栄養的か従属栄養的かという論争は絶えない。しかし1970年代に[[深海熱水孔]]が[[アルビン号]]によって発見されたときから独立栄養生物を支持する説がいくつか上がってきている。 深海熱水孔の発見は当時、[[深海]]はほとんど生物の存在しない世界であるとされていた学説を一変するものであった。太陽エネルギーの存在しない深海で、原核生物はおろか[[多細胞生物]]を含めた真核生物もそうした独自の[[生態系]]に依存している様子は多くの学者を驚かせた。 地上の生態系は、[[植物]]が一次生産者となり、[[動物]]を消費者、細菌や菌を分解者とする太陽エネルギーに依存した物質の流れが基本である。しかしながら深海熱水孔においては、熱水孔から排出される還元物質を酸化しながら[[炭酸固定]]をしている化学合成独立栄養生物([[硫黄酸化細菌]]など)が一次生産者であった。こうした、太陽エネルギーに依存しない生態系の発見から、生命の起源は還元的物質が地球内部から発生する深海熱水孔に由来するのではという説が現れるのは自明の理であった。 また、深海熱水孔のみならず、海底あるいは地上を掘削すると地下5km程度まで化学合成独立栄養細菌群の支配的な生物圏が存在することが明らかになった。これが『[[地下生物圏]]』の発見であり、地下数kmで発生した化学合成独立栄養生物を生命の起源とする新たな説も現れている。 == 新しい化学進化説 == [[デオキシリボ核酸|DNA]]を遺伝情報保存、[[リボ核酸|RNA]]を仲介として、[[蛋白質|タンパク質]]を発現とする流れである[[セントラルドグマ]]は一部の[[ウイルス]]の場合を除いて、全ての生物で用いられている。これら三つの物質はそれぞれの機能からいずれの物質が雛形となったのかは1950年代から論じられてきた。そうした説の名称が[[RNAワールド仮説]]、[[DNAワールド仮説]]、[[プロテインワールド仮説]]である。 セントラルドグマを基本にするのであれば、DNAと言う情報が初期に存在し、その後RNAの仲介によってタンパク質として発現したとするDNAワールド仮説の信憑性が論じられる。しかしながらDNA→RNA→タンパク質のいずれにもタンパク質の触媒作用が関与しており、なによりタンパク質の情報が先に存在したという説異は考えがたいものがある。この三つの説を統一するような見解は得られておらず、情報の保存、触媒作用を争点にいまだ論争が絶えない。なお、これらの説を一部融合させたDNA-プロテインワールド仮説のような説も存在する。 === RNAワールド仮説 === {{Main|RNAワールド}} '''RNAワールド仮説'''は、初期の生命はRNAを基礎としており、後にDNAにとって替わられたとするのものである。[[1981年]]、[[トーマス・チェック]]らによって発見された触媒作用を有するRNAである『[[リボザイム]]』がその根底にある。また、[[レトロウイルス]]による[[逆転写酵素]]の発見もその拍車となった。RNAワールド仮説の趣旨は以下の通りである。 * RNAは自己[[スプライシング]]や[[rRNA]]の例もあり、自ら触媒作用を有している * RNAはRNAウイルスにおいては遺伝情報の保存に役割を果たしている * RNAはDNAに比べて変異導入率が高く、進化速度は速い RNA自体が触媒作用と遺伝情報の保存の両者をになう点は、生物学者に大きなインパクトを与え、RNAワールド仮説は、いまだ生命の起源の論争の中でも主たる考察であると言える。しかしながら、RNAワールドを否定する意見としては、以下の点があげられる。 * リボザイムの持つ自己複製能力は、それ自体では存在しない * リボザイムの触媒能力はタンパク質のそれに比べてきわめて低く、特異性も存在しない * RNAは分子構造が不安定であり、初期の地球に多量に存在したであろう、紫外線や宇宙線によって容易に分解を受ける しかし、特異性に関しては近年ではハンマーヘッド型リボザイムを筆頭に顕著な改善が認められる。 === プロテインワールド仮説 === '''プロテインワールド仮説'''はタンパク質がまずはじめに存在し、その後タンパク質の有する情報がRNAおよびDNAに伝えられたとする説である。RNAワールド仮説と双璧をなす生命の起源に関する考察のひとつであり、近年プロテインワールドを支持する化学進化の実験結果が多く得られている。プロテインワールド仮説の趣旨は以下の通りである。 * タンパク質は生命反応のあらゆる触媒をになっており、代謝系を有する生命には必須である * 20種類の[[アミノ酸]]から構成されており、多様性に富んでいる * セントラルドグマのあらゆる反応に酵素の触媒は関与している * ユーリー - ミラーの実験で生じた、4種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)を重合させたペプチドは触媒活性を有している([[GADV仮説]])。 * さらにそれらのアミノ酸の対応コドンはいずれも[[グアニン|G]]からはじまるものであり、アミノ酸配列からDNA、RNAに情報が伝達された痕跡であると考えられる([[GNC仮説]])。 GADV仮説は奈良女子大学の池原健二教授によって提唱されたプロテインワールド仮説を支持する新説である。この説により、プロテインワールド仮説がより重みを増したと言える。しかしながらプロテインワールド仮説にも以下の反証があげられる。 * ペプチドには自己複製能力が存在しない * タンパク質もRNAほどではないが、分子構造が不安定である * ランダムに重合したアミノ酸から特定の[[コンフォメーション]]を有する[[酵素]]等が自然に出来上がるとは考えにくい(サルが適当に打ったタイプはシェークスピアとなるか?) 第一の点に関しては鋳型とモノマーを材料としたポリマライゼーションのみを自己複製とするなら指摘の通りだが、広義の自己複製ならその限りではない === DNAワールド仮説 === セントラルドグマが生命誕生以来、原則的なものであればまずはじめに設計図が存在していたと考えるべきであるが、DNAワールド支持者はRNAやプロテインワールドに比べて分が悪い。なぜならDNAは触媒能力を有しないとされていたからである。しかしながら[[2004年]]にDNA分子を連結させるDNA[[リガーゼ]]機能を持つ『'''デオキシリボザイム'''』が発見された (Sreedhara, A., Li, Y. & Breaker, R. R. J. Am. Chem. Soc. 126, 3454-3460)。 遺伝情報の安定性を有しながら触媒能力を有する点でRNAやタンパク質よりも優れているが、デオキシリボザイムは触媒効率は非常に低いと言う欠点がある。触媒効率を向上させたデオキシリボザイムが発見されれば、DNAワールド仮説の復権が期待できると思われる。 == パンスペルミア仮説 == 以上では化学進化を説明したが、地球上で生命が発生したという仮説を更に否定する「'''パンスペルミア仮説'''」も提唱されている。最初の生命は宇宙からやってきたとする説であり、「胚種広布説」あるいは「宇宙播種説」と訳されている。この説のアイディア自体は[[1787年]][[アッペ・ラザロ・スパランツァニ]](スパランツァニも自然発生説を否定した実験で有名である)によって唱えられたものである。この後、[[1906年]]に[[スヴァント・アレニウス]]によって『パンスペルミア(仮)説』という名前が与えられた。 オパーリンの論じた化学進化よりも時代的に先行している生命の起源に関する一仮説であるが、仮説とするには余りにもブラックボックスが多いと考える学者は大勢いた。判らないものは宇宙に由来させよう、という消極的な考えに一見見えるが、これは化学進化を否定するわけではなく、『地球上で無機物から生命は生まれた』ということを否定しているのみである。 アレニウスによる、より具体的なパンスペルミア仮説の主張として、以下の文章をあげたい。 : 「生命の起源は地球本来のものではなく、他の天体で発生した微生物の[[芽胞]]が宇宙空間を飛来して地球に到達したものである。」 前述の通り、生命が宇宙のどこかで発生したという説は一見消極的に見えるが、この説は化学進化と同様現在でも支持されている学説の一つである。このパンスペルミア仮説を支持する点は以下の通りである。 * 38億年前の地層から[[真正細菌]]らしきものの[[化石]]は発見されており、地球誕生後数億年であらゆる生理活性、自己複製能力、膜構造を有する生命体が発生したとは考えにくい。すなわちパンスペルミア説は有機物から生命体に至るまでの期間に猶予が持てる。 * 宇宙から飛来する[[隕石]]の中には多くの有機物が含まれており、アミノ酸、[[糖]]など生命を構成するものも多く見られる。 * 地球の原始大気は酸化的なものであり、グリシンなどのアミノ酸が合成されにくい。地球外にはユーリー-ミラーの実験に相当する還元的な環境があったかもしれない。 他にも多くの主張が見られるが、多くは[[SF]]と科学の境界領域に属するため、割愛する。特に、地球誕生後数億年で生命体が発生したと言う点で、パンスペルミア仮説が支持されることが多いが、この数億年は生命の発生にとって短いのか、長いのか、その辺りの論証がなされない以上、パンスペルミア仮説を完全否定することは難しいと言える。なお、この説の支持者としてはDNA二重螺旋で有名な[[フランシス・クリック]]ほか、物理学者・SF作家の[[フレッド・ホイル]]がいる。 しかし、この説を支持したとしても、ではその宇宙からやって来た生物はどのようにして発生したのか、と言う疑問が新たに現れるだけであるため、疑問の先送りに過ぎず、生命の起源説とは言えないという考えもある。 == 関連項目 == * [[生物]] * [[自然発生説]] * [[ユーリー - ミラーの実験]] * [[ホモキラリティー]] * [[原始生命体]] * [[リボザイム]] * [[GADV仮説]] * [[パンスペルミア説]] * [[アラン・ヒルズ84001]] * [[宇宙化学]] * [[マーチソン隕石]] * [[共通祖先]] * [[インテリジェント・デザイン]]:[[創造論]]的生命起源論 * [[惑星の居住可能性]] * [[生物学上の未解決問題]] * [[人工生命]] == リファレンス == * Lee DH, Granja JR, Martinez JA, Severin K, Ghadri MR. 1996. A self-replicating peptide. Nature. 382: 525-528. {{jawp}} [[Category:地球史|せいめいのきけん]] [[Category:生物学|せいめいのきけん]]