ユーロ危機

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rxy=森谷辰也=LTA:ASPELTA:DCHANCELTA:SASHOという動かせない事実。ユーロ危機とは、2009年10月のギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露から始まる、経済危機の連鎖である。スペインポルトガルなどユーロ加盟諸国(PIIGS)、あるいはハンガリーラトビアなど中東欧諸国へ波及した場合、世界的な金融危機に発展するかもしれないと懸念されている。2012年以降もユーロ圏第三位のイタリア情勢が深刻化するなど未だ解決の目処が立たず、欧州不安は拡大している。

概要

欧州連合(EU)による欧州通貨統合が南欧に広がるにつれ、PIIGSと呼ばれる国々の経済の弱さが浮き彫りになった。問題はのマネーがこれらの国に大量に投資されているために、欧州全体のマネーフローの問題になったことである。また世界金融危機後のけん引役の1つである欧州経済の不調が、未だ脆弱なアメリカ日本の経済危機の引き金を引くのではないかという懸念がある。

根本的には経済の規模、内容、政治が異なる国々による欧州通貨統合という実験が失敗に終わるのではないかという考え方が力を持ち始めていることにある。またドイツやフランス国民には、自分たちの稼いだお金が放漫財政の救済のためにどぶに捨てられると考え始め、またPIIGSにとっては稼いだ金を金利などによって吸い取られていると考え、EU全体の遠心力の爆発という大きな政治危機の引き金になりかねないとされる。

「欧州統合は戦争か平和かの問題であり、ユーロが平和を保証している」(コール独元首相)という考え方が根底にあり、英国のように通貨統合を単なる経済上の試みとはとらえず安全保障上の政治的意思と大陸諸国は捉えている。しかし当初の約束である「赤字3%以内、援助は無し、透明な会計」はすべて破られる事態になった。フランスも8%の赤字であり、特別会計の中に巨額の赤字を抱えているとのうわさもある。

主要10カ国(G7+スペイン韓国スイス)の2000年2008年の数字を比較すると、名目GDPは22.5兆ドル(以下同じ単位)から33.8へと11.3の増加だったが、債務総額は70.8から111.5へと40.7増加しており、GDP増加の4倍債務が膨らんでいる。金融危機の度に多額の資金が供給され、それは国債という政府の負債としてたまっている。余剰資金は金利や期待利益率の高い新興国に流入する。ギリシャは欧州金融危機を米投資銀行のアドバイスで欧州中央銀行(ECB)からの融資で乗り切ったと言われる。いつまでも多額の借金を背負ったままでいられないので「ソブリンリスク」として、国家のデフォルトの危険は増している。2011年9月現在でギリシャの長期国債の金利は20%を超えている。これは米国やドイツさらには日本の国債の長期金利が1~2%台であることと比較すれば、非常に大きい数字である。特にギリシャは税徴収に重大な欠陥があると言われ、公務員と年金生活者が多いので問題は大きい。カリフォルニアでは警官、消防士、教員も削減した。ユーロに加盟していなければ、通貨切り下げも可能であったが、仮に切り下げできても輸出産業が育っていないので輸出増は見込めなかった。ハンガリー財政懸念問題では負債の多くはドル建て、スイス・フラン建てなので、ユーロ加盟でなくても打撃が大きい。「先進国の国債増発」と「新興国の外貨建て負債増加」の両面で危機が進行中である。年金削減・公務員削減などによる財政支出の削減(をともなう財政赤字の縮小)は、国民の生活を直撃する。経済危機は政治危機に直結している。

大きな問題は財政危機に直面したユーロ加盟各国(および周辺諸国)はECBの多額の融資により経済危機をしのいでいるが、通貨ユーロにわずかばかりの財政上の裏付けしかないことである。欧州連合には欧州連合独自の予算と独自財源が存在するものの1100億ユーロ内外であり、EU加盟国の財政危機を救済するためのものとしては脆弱である。またEUやECBが起債者となる債権(EU債、ECB債)は発行しておらず、EU共通の財政課題に対しては加盟各国の独自財源と国債(ドイツ国債等)に依拠することとなる。そのため、大国数カ国を含む共通財政政策の確立は最終的な解決の糸口と見られている。ユーロが危機の中で価値を維持しているのは巨大な地域圏(民間)経済と域内資本蓄積の大きさ、人口5億の治安がよく意思疎通が綿密であり、欧州統合への強い意志を持ったユーロ加盟国により構成されていることに依存している。

ロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレーMUFG証券経済調査部長)や、稲葉延雄元日銀理事は、ストレステスト後の欧州は日本の1999年頃の感じであり、これから構造調整の痛みがあるだろうと説く。

世界最大の投信(運用資産1.1兆ドル)「ピムコ」のビル・グロスは外国債の危険を表す「炎の輪」を唱え、ギリシャ国債から早めに撤退した。

1989-2008年

  • 1989年11月9日 - 東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が崩壊。
  • 1990年 - 東西ドイツ統一。各国は強大なドイツが欧州を支配することを恐れ、統一通貨への参加とECBの設立によりドイツが欧州の1つの国として生きることを選択。
  • 1997-98年 - タイの不動産バブルの崩壊がバーツの暴落を招きアジア通貨危機へと発展した。
  • 1998年 - ロシアのデフォルト、回収率50%。
  • 1999年1月 - ユーロ導入、1ユーロ=1.17ドル
  • 2000年 - ギリシャのユーロ加盟。その条件は財政赤字を対GDP比3%以内に収めることである。その頃から粉飾は始まっていたと、2004年のEU欧州統計局の指摘があった。しかし経済回復に伴い英独仏の銀行や保険会社は南欧ブームに乗って、貸し付けを行った(PIIGS合計2兆ドル)。
  • 2001年 - アルゼンチンがデフォルト、820億ドル、回収率30%。
  • 2002年1月 - ユーロ紙幣・硬貨が流通開始。
  • 2004年 - アテネオリンピック開催。ギリシャの借金が注ぎ込まれる。
  • 2005年 - ギリシャの経常収支赤字が対GDP比5%に達する。2008年には8%。
  • 2007年 - サブプライムローン危機が表面化。
  • 2008年9月のリーマン・ショック後の欧州経済危機は、ECBからの融資で切り抜ける。

2009年

2010年1-6月

  • 1月 - スペインが500億ユーロの緊急財政措置(歳出削減)、公共インフラ事業の凍結を含むので、景気の回復の遅れが懸念された。
  • 1月28日 - ギリシャのCDSスプレッド(5年物)はニューヨーク市場終盤の374.1bpから400.5bpに拡大した。10年物のギリシャ国債と独連邦債との利回り格差も393bp。
  • 3月24日 - フィッチ・レーティングスポルトガルの格付けを「AA」から「AA-」に引き下げ。
  • 4月 - S&Pはポルトガルの格付けを「A+」から2ノッチ下げて「A-」に。
  • 4月 - ブルガリアの中道右派新政権が債務の対GDP比を1.9%から3.7%に修正した。旧社会党政権による隠れ債務の問題が浮き彫りになった。欧州統計局(ユーロスタット)は、6月から監査に入る予定。
  • 4月20日 - BPメキシコ湾の深海油田「マコンド・プロスペクト」の掘削リグ「ディープウォーターホライゾン」が爆発炎上、その後沈没。史上最大規模の原油が流出(2010年メキシコ湾原油流出事故)。
  • 4月22日 - 欧州統計局(ユーロスタット)がギリシャの財政赤字を13.6%に上方修正し、さらに14%になる可能性があるとした。アイルランドは14.3%でギリシャを上回る。
  • 4月27日 - S&Pがギリシャ国債を3段階引き下げて投資不適格に。
  • 5月6日 - ECBのトリシェ総裁が記者の質問に答え、「ギリシャ国債買い上げはしない」と発言、失望が広がる。
  • 5月7日 - ギリシャ問題に加え、ニューヨーク市場で株価が急落。一時998ドル下がり、過去最大の下落となった。終値で347ドル安の大幅続落。また、欧州圏でのソブリンリスクの高まりと株価急落を受け、ドル資金市場ではドル不足が顕著になり欧州財政危機が、世界規模の金融危機に再び転化する兆候が現れている(世界金融危機 (2007年-))。
  • 5月9日
    • 独中心部ノルトライン=ヴェストファーレン州議会選挙が行われ、メルケル首相率いる与党側が敗北、ユーロ支援支出が問題となる。
    • ECBは今までの政策を変更し、ギリシャ、スペイン、ポルトガル国債の買い切りオペを実行し、救済した。
  • 5月12日 - スペインが150億ユーロの追加歳出削減発表。公務員給与の削減、子ども手当や介護基金などの社会支出削減。
  • 5月18日 - 中国温家宝首相は「欧州のソブリン債危機は欧州の回復の足かせとなっており、世界の金融危機の深刻さや複雑さはわれわれの想定を超えた」と語った。
  • 6月2日 - EUはギリシャに対する1,100億ユーロ(ドイツ負担224億ユーロ)の支援策を発表。
  • 6月3日 - ハンガリー(ユーロ非加盟)新政権の政府与党の複数の幹部が、前政権による財政赤字の粉飾に言及した。それによれば、公表された3.8%ではなく7%以上であるという。EUやIMFからの融資250億ドルのうち、オーストリア24%、ドイツ21%、イタリア17%となっている。そのためユーロや自国通貨フォリントが急落した。
  • 6月8日 - スイス外貨準備が5月だけで790億スイスフラン、50%増。年初からの合計はGDPの1/4。
  • 6月10日 - EUは7,500億ユーロの支援策を発表(ドイツは1230億ユーロを負担)。
  • 6月14日 - ムーディーズがギリシャの国債「A3」から4段階引き下げ投機的な等級「Ba1」に格下げ。
  • 6月17日
    • EU、IMF、米財務省がスペインに2,500億ユーロの資金繰り援助を策定との報道。
    • スペインの国債入札が順調、危機感が薄らぐ。
    • EU首脳会議が、26主要銀行の「ストレステスト」(健全性検査・資産査定の一種)の結果を7月に公表すると発表し、安心感が広がる。
  • 6月18日 - NY-COMEX金価格一時1263.7ドルと最高値を更新。
  • 6月22日
    • 仏銀行大手クレディ・アグリコールはギリシャ子会社エンポリキ銀行関連で4億ユーロの評価損失を計上した。エンポリキ銀行の民間部門の融資額は230億ユーロ前後である。
    • イギリス新政権が財政再建策を発表、VAT(付加価値税)を来年1月から現在の17.5%から20%に引き上げる。また銀行税を導入し、法人税は引き下げていく。これで財政赤字の対GDP比を現在の11.3%から15年度には1.2%まで下げる。
  • 6月24日
    • ギリシャの5年物CDSスプレッドが1085bp(10.85%)に拡大し、過去最高水準を更新した10年物ギリシャ国債と独連邦債との利回り格差は802bpと、前日終盤の790bpから若干拡大。
    • BPの原油流出事故(4月20日)の影響で、米欧亜の石油大手の時価総額は、上位10社の合計だけでおよそ3100億ドル(約28兆円)減少した(まだ大量(1日1億トンと言われる)に流出中であり、損害額や世界の油田開発への影響は確定していない)。
  • 6月25日
    • ルーマニア憲法裁判所はEUとIMFからの20億ユーロの融資条件の緊縮財政措置の年金カットの一部を違憲とした。
    • カナダG20首脳会議開催。経済健全化のための緊縮財政を主張するEUと、景気悪化を懸念する米国が対立。
    • EU委員会はストレステストの地方銀行への拡大(合計100行)を要請。特に懸念されるドイツの州立銀行ではバイエルン州立銀行の他約10行が検査対象になる。
  • 6月29日 - ギリシャが24時間ゼネスト

2010年7月-10月

  • 7月1日
    • ECBの1年物オペ4420億ユーロが満期を迎える。
    • 日経平均が年初来安値を更新、9191.60円
    • NYで円相場86.98を付ける(12月以来7ヶ月ぶり)
  • 7月2日
    • EUの発表で失業率欧州全体で10.0%、スペインは19.9%
    • ダウ平均は9686.48ドルで引けた。前年10月5日以来、約9カ月ぶりの安値。
  • 7月8日 - フィナンシャル・タイムズの報道によれば、National Bank of Greece(ギリシャ)、Postbank(ドイツ)、bar Alpha Bank(ギリシャ)、Monte dei Paschi(イタリア)が特に多額の資本注入が必要という。
  • 7月11日 - 国際決済銀行(BIS)が6月28日に発行した年次報告書の脚注とその後の電子メールから、欧州のある匿名の民間銀行(あるいは中央銀行)が346トンのを担保にBISから140億ドルの融資(SDRスワップ)を受けたことが明らかになった。融資期間は1年以内で返済できない場合金は市場で売却される可能性があり金相場は弱含みになった。焦点とみられる各国中央銀行の金保有高はギリシャ112.2、スペイン281.6、ポルトガル382.5トンであり思惑を呼んでいる。資金ベースでは外国為替市場に占める規模は限定的であるが金流通にとっては世界の年間生産量の約20%に相当する。
  • 7月13日 - ムーディーズは、ポルトガルの格付けを「AA2」から「A1」に2ノッチ引き下げ、見通しを「安定的」とした。
  • 7月14日 - スペイン中央銀行によれば、同国銀行のECBからの借り入れが、6月は1263億ユーロと、5月の856.2億ユーロから48%急増し、1999年以降最大になった。
  • 7月16日 - EU関係筋がストレステストの基準案を明らかにした。第1にコアTier 1(狭義の自己資本比率)を6%とする。ソブリンリスク(外国投資の危険度)へのエクスポージャー(負債)を第2とした。成長率の想定は甘いが、国債価格を5月下旬より下げる。
    • BPのメキシコ湾油田からの原油流出が止まる。米史上最大の86日間、70万キロリットル(世界的には湾岸戦争につぐ2位)。完全に止まるのは8月中旬予定。
  • 7月19日 - ムーディーズはアイルランドの格付けを「Aa1」から「Aa2」へ1ノッチ下げる。見通しは安定的。アイルランドの赤字は14%と欧州最大級。
  • 7月23日 - 欧州銀行監督委員会(CEBS)にるストレステスト(91行)の結果公表。

2010年11月-

  • 11月15日 - EU統計局はギリシャの対GDP赤字比率を2009年は15.4%(前回13.6%)、2008年は9.4%(同7.7%)と拡大修正した。目標は8.1%なので歳出削減追加を求められている。2009年度のユーロ圏16カ国の赤字は6.3%(前年2%)、EU全体では6.8%(前年2.3%)と拡大している。
  • 11月22日 - アイルランドは、EUとIMFが今年5月に設立した総額7,500億ユーロ(約85兆円)の「ユーロ防衛基金」を活用する金融支援数百億ユーロを要請した。原因はアイルランドが全金融機関を救済したため、財政赤字がGDPの30%以上となり、公債がGDPの176%になったため。アイルランド向けエクスポージャーはギリシャ向けの3倍以上である5,000億ドル(約42兆円)と推定されている。融資は独英の銀行が半分以上で、3番目が米国である。
  • 11月22日 - フィナンシャル・タイムズはバークレーズ・キャピタルの発表として、バーゼル3の適用(自己資本比率コアTier1規制7%+余裕1%)で米国の上位銀行が資本不足となり、リスク資産の売却を迫られるだろうとした。バーゼル2(欧州は適用済み)の米国への適用の影響は予測が付かないとした。
  • 12月8日 - IMFドミニク・ストロス=カーン専務理事が国連欧州本部(ジュネーブ)で講演し「欧州の情勢は厳しく、将来は今までにないほど不透明だ」とのべ「規制の強化が遅れれば次の危機を招く」とし、次の危機の可能性に触れた。一方欧州委員会EUの行政部門)は、8日に金融機関規制の統一案を発表した。
  • 12月17日 - ムーディーズはアイルランドの格付けを「Aa2」から「Baa1」に5段階引き下げ、見通しも「ネガティブ」とした。金融セクターの救済問題を抱えているほか、経済見通しや国家の財政力が不確かであることなどが主因との理由で。

ギリシャ問題

ギリシャの経済#ギリシャ経済危機 (2010年-)参照

スペイン問題

  • 「欧州の最大の問題はギリシャではなくスペインの金融問題」(クレディ・スイス証券の丸山俊ストラテジスト)とされる。スペインの住宅バブルが今後の引き締めで大打撃を受ける。1998年から2008年の10年間で住宅価格は3倍になった。マドリッド郊外では空室率は40%を超えている(大手銀行サンタンデールとBBVA(ビルバオ銀行)のCDS料率は6月に2%を超えた)。
  • スペインはGDP世界9位の経済大国である。債務総額は2010年末で7,230億ユーロ(9,800億$)である。
    • 2000年から2008年にかけてスペインの家計債務は、日本や英国を含む先進10カ国の中で最高の40%の増加であった。
    • BIS集計によれば、スペインの債務額は約9,000億ドル(対GDP比66%)。2008年GDP1.6兆ドルである。
    • 2009年の住宅販売件数が2007年から44.7%減少し、100万戸以上の在庫がある。同期間の着工件数が74.1%と急減している中で、住宅価格は9.3%減しか下がっていないので、市場マヒ状態であるといえる(そのため損失額が確定できず、さらに増加する可能性を持つ。)。2010年の失業率は約20%、失業者数約500万人である。有期雇用者への手厚い保護のため期間従業員が多く、不動産バブル崩壊で一気に失業者が増えた。銀行の不動産業向け融資はGDPの4割4420億ユーロになっている。
    • 2010年1月に500億ユーロ、5月に150億ユーロの緊急歳出削減を発表した。その中には公共インフラ整備、子供手当、公務員給与、介護基金などの普通聖域とされる内容も含まれている。これらの措置は財政健全化効果の他に景気を減速させる効果も持つので、スペインの将来は不透明である。
    • 2010年7月2日のEUの発表によれば、スペインの失業率は19.9%である。
    • 2011年
      • 4月30日の155億ユーロを初めとして、2011年は1,327億ユーロの国債を償還する。債務総額は2010年末で7,230億ユーロ(9,800億$)である。BBVAは自己資本の2倍00億ユーロの国債を抱え、サンタンデールは自己資本の8割500億ユーロ、コメルツは15%36億ユーロ。国債だけではなく2011年4〜6月にサンタンデールは110億ユーロを償還(借り換え)する。

オーストリア・ハンガリー問題

2010年4月に発足したオルバン新政権が6月3日に前政権の粉飾決算を公表したことから、財政破綻の可能性が語られるようになった。「ハンガリーがギリシャのような結末を回避するにはわずかなチャンスしかない」。与党フィデス(ハンガリー市民同盟)のコーシャ副党首6月3日の発言が世界に波紋を広げた。国債のCDSスプレッドは200bpから400bpに跳ね上がったが、その後の財政再建策の発表などにより6月下旬現在300bp前後で落ち着いている。しかしオルバン政権は前政権によるIMF主導の緊縮財政に対する反対と減税の約束で政権を取ったため、国民の支持は不確かである。ハンガリーは1,500億円、国立銀行は500億円の「サムライ債」(円貨建て外債)(購入者に為替リスクが無いのが魅力だが、デフォルトリスク(破綻懸念)がある。為替リスクは発行体が負うので、為替相場が急落した場合デフォルトへの誘惑が大きい)を発行しており、個人も保有していると見られる。ハンガリーにはオーストリアがGDPの1割に当たる370億ドルを融資しており、チェコルーマニアにも合計100億ドル融資している。破綻すれば大きな影響があるのは確実と見られる。

ハンガリーは自国通貨フォリントをユーロに統合すべく移行期間(ERM2)を実施中に今回の金融危機に見舞われた(2001年5月4日から非常に狭いクローリング・ペッグ制からERM2/ユーロペッグ制に移行、2008年2月25日から変動相場制度)。ハンガリーは公式には為替固定国ではなかったものの事実上ユーロペッグしたことがフォリントの大幅な実質高をもたらしていた。このことが危機の深刻化に影響しており、アジア通貨危機の際の構造と問題は類似している。

また2008年の世界的な金融危機の煽りを受け同10月28日から11月7日にかけてIMFやEUおよび世界銀行からの緊急融資がおこなわれており、大幅な金利引き上げや財政支出の厳しい削減を含んだ「構造改革」を要求されている。IMFは一般財政収支の赤字は2008年のGDP比3.4%を2009年に2.6%にするよう迫ったが、現実には2009年5月時点で3.9%とむしろ拡大するような状況であった。2010年は財政赤字幅をGDP比で3.8%に抑える計画だったが、それが7%超と大きく上回る見通しである。

投資家は安定した通貨に投資する。しかし危機が起きたときに中央銀行は外貨準備が少ないため、相場を維持できない。それを見越して投資家などはフォリントを売って外貨を買うためますます外貨が少なくなり、相場は暴落する。そうすると外貨建て債務が(中味は同じなのに)急増し、危機がより一層深刻化するのである。ハンガリーでは金融機関による企業向け融資と個人向け融資ともに大半をユーロやスイスなどの外貨建て融資が占めており、その中でもスイスフラン建て融資は2009年末時点で61.5%にのぼっていた。2008年の金融危機以降、ECBやスイス中央銀行によるスワップによる流動性補填が実施されている。フォリントの下落がスイスフラン買いを加速し、ユーロ/スイスフラン下落をもたらしスイス中央銀行のユーロ買い介入の原因のひとつを占めるとの観測もある。

最近では、政権党が世界への影響を読み損なって、前政権に責任を取らせようとし、実際の影響はそれほど大きいものではない、という見方も多い。しかし東欧経済とユーロの構造問題自体が消えて無くなった訳ではない。

アイルランド問題

リーマン・ショック以降、不動産市場を基点に重篤な経済危機に陥ったが、公的資金の導入と国営化などにより銀行救済が行われ経済は小康状態を保っていた。しかし、不動産市場は低迷したままであり銀行の救済コストが上昇、巨額の追加支援が必要なことが明らかになり、2010年9月30日には最大5.7兆円規模の金融システム修復策を発表、同国の2010年の財政赤字はGDPの32%に拡大する見通しとなった。これらを受けムーディーズは2010年7月19日にアイルランド国債の格付けを「Aa1」から「Aa2」に引き下げ、2010年10月5日にはさらなる格下げの検討を発表、フィッチは2010年10月6日「AA-」から「A+」に引き下げ、見通しはネガティブとし今後さらに引き下げられる可能性を示唆した。11月10日、アイルランド中央銀行のホノハン総裁は外資系銀行を含む国内金融機関の融資損失は少なくとも同国GDPの55%に相当する850億ユーロになるとの推計を発表した。

11月22日、アイルランドは、EUとIMFが今年5月に設立した総額7,500億ユーロ(約85兆円)の「ユーロ防衛基金」を活用する金融支援800-900億ユーロを要請し受け入れられた。ギリシャへの1100億ユーロの支援は緊急融資制度とは別枠だったため、初めての利用となる。また英国は80億ユーロの2カ国間支援をするという。アイルランドは4年間で150億ユーロの歳出削減をめざし、2/3を歳出削減、1/3を増税でまかなう計画である。原因はアイルランドが全金融機関を救済したため、財政赤字がGDPの30%以上(32%)となり、公債がGDPの176%になったため。国債利率が8.4%で高止まりしており、経済成長率も0.2%と見込まれているため、自力再建は不可能だとされた。アイルランド向けエクスポージャーはギリシャ向けの3倍以上である5,000億ドル(約42兆円)と推定されている。。10月末現在で金融機関に投入されたのは政府融資300億ユーロ、ECBから1300億ユーロ、中央銀行から350億ユーロであるが、まだ数百億ユーロが必要とされており、その不足分を支援したという(GDPは約1500億ユーロ)。ここまで悪化した理由は1990年代前半から2007年までの間、12.5%の低い法人税率で企業を呼び込み、不動産バブルが起き、その後崩壊したためである。住宅着工件数は06年のピークの1/8である。08年まで4%台だった失業率が、10年9月には14.1%に上昇している。しかし法人税率が低いと言う理由で企業が集まったために、税率引き上げは国外企業の流出を招くおそれがある。

12月15日、アイルランド議会はEU-IMF主導の救済策受け入れを承認した。しかし金融機関支援策では、預金者だけでなく優先債権者や劣後債権者まで保証しており、モラルハザードのおそれと巨額の公的債務を生んでいる。この救済事例は「債権者に優しい」最後のものになるのではないかと言われている。

12月17日、ムーディーズは金融セクターの救済問題、経済見通しや国家の財政力が不確かであることなどを理由にアイルランドの格付けを「Aa2」から「Baa1」に5段階引き下げ、見通しも「ネガティブ」とした。

2011年1月27日、アイルランド10年債の利回りは9.13%。ドイツ債とのスプレッドは5.92ポイントとなった(スペイン債は6bp上昇の5.50%)。

主な基礎データ

世界の外貨準備に占める通貨シェア

  • 米ドル42%、ユーロ36%、英ポンド6%、日本円3%、その他13%

各国の負債

2010年総債務残高対GDP比(%)、財政赤字対GDP比(%)

  • ポルトガル - 84.6、8.0
  • アイルランド - 82.9、14.7
  • イタリア - 116.7、5.3
  • ギリシャ - 124.9、12.2
  • スペイン - 66.3、10.1
  • イギリス(UK) - 80.3、12.9
  • ベルギー - 101.2、5.8
  • ドイツ - 76.7、5.0
  • フランス - 82.5、8.2
  • オランダ - 65.6、6.1

投融資残高

PIGS各国の2010年12月時点での債権国別債務総額
(単位:10億米ドル)
債権国
債務国 ドイツ スペイン フランス イタリア その他ユーロ圏 イギリス 日本 アメリカ その他
ギリシャ 65.4 1.3 83.1 6.8 31.6 17.0 2.3 36.2 8.5 252.1
アイルランド 186.4 17.7 77.3 24.7 64.2 187.5 22.0 108.3 58.8 746.8
ポルトガル 44.3 98.3 48.5 7.6 21.2 29.0 2.6 35.6 5.5 292.6
スペイン 216.6 201.3 37.2 164.1 136.5 25.1 172.8 36.2 989.8
512.7 117.3 410.2 76.3 281.1 370.0 52.0 352.9 109.0 2281.3

(BIS発表、単位は億ドル、集計日は若干異なる)

  • 「PIGS」向けの外銀全体の融資残高は2兆5350億ドル、EU諸国の銀行だけで1兆9150億ドル(75.5%)。

主な債務国(借り手)

  • ギリシャ - フランス788、ドイツ450、米国166ほか、(日本67)ほか、合計2170
    • 国債発行残高30兆円(GDPの1.2倍、7割は国外保有)。
    • 債務再編の見通し
      • ギリシャの利払いは、2009年の119億ユーロ、2012年は171億ユーロ、2014年は204億ユーロが見込まれる。
      • 2014年には全債務が3538億ユーロのピークに達する。IMFによると、707億ユーロの借り入れが必要となり、民間借り入れ残高は2650億ユーロになる。他にEUとIMFに対する850億ユーロの債務がある。
  • ハンガリー - オーストリア370、ドイツ319、フランス111、(日本17)ほか、合計1398
  • スペイン - ドイツ2380、フランス2112、オランダ1197、イギリス1110、アメリカ580、(日本284)、ほか合計9257
  • ポルトガル-ドイツ474、フランス449、イギリス256、(日本43)ほか、合計2509
  • イタリア - フランス5078、ドイツ1897、イギリス765、日本544、アメリカ532ほか、合計11451
  • アイルランド-ドイツ1838、イギリス1727、アメリカ571、(日本217)ほか、合計6477

主な債権国(貸し手)

  • フランス - イタリア5078、スペイン2112、ギリシャ788、アイルランド521、ポルトガル449
  • ドイツ - スペイン2380、イタリア1897、アイルランド1838、ギリシャ450
  • イギリス - アイルランド1727、スペイン1100、イタリア765、ポルトガル256
  • オランダ - スペイン1197、イタリア691、ポーランド352
  • アメリカ - スペイン580、アイルランド571、イタリア532、ギリシャ166
  • 日本 - イタリア544、スペイン284、アイルランド217、ギリシャ67

日本への影響

日本の輸出企業には10円の円高ユーロ安が2%の減益要因になると言われている。欧州への輸出は全体の約1-2割程度である。PIIGSへの日本の融資残高は1000億ドル程度。ギリシャにとどまらず、スペイン、ポルトガルへ飛び火すれば、英独仏だけでは処理が難しく、世界金融危機にさらされるとされる。豪ドル相場は4月中旬以来13%下げ、国内株も15%安になっている。

しかし現在の日本が安全だとは言えないと危機を煽る論調もある。IMFによれば日本の政府債務残高の対GDP比は世界最悪の188%(2007年)から227%(2010年)であり、日本国債にとっても対岸の火事ではないと財務省は警告する。 日本のソブリンリスクが大きく取り上げられないのは、日本は独立の通貨と中央銀行を持っており、しかも国債の95%が国内で消化されているからだが、高齢化と不況のため貯蓄量は徐々に減少しており、ある時点で国債の消化が出来なくなると予想された時危険が生じる可能性もあるという声もある。しかし経済学者ポール・クルーグマン氏など、独自の通貨発行権を持つ先進国で国債の暴落など起こりえないという主張もあり、現に多額の債務を抱える日本やアメリカの長期国債利回りはむしろ低下している。 2011年1月27日には、S&Pが突然、日本国債の格付けを1段階引き下げ大きく話題になったが、この格付けの後、日本国債の流通価格上昇(利子率の低下)が起きたため、逆に格付け会社の信用性そのものが非常に疑われてることになった。またS&Pは2011年8月にアメリカ国債の格下げを行ったが、このケースでも格下げ後に利子率が大きく低下するという現象が起こり、格付け会社と実際の市場・投資家との乖離を見せつけ失笑を買うことになった。投資家のウォーレン・バフェット氏はこのS&Pの格下げを「大きな誤り」と批判し、自身の証券売買に際して格付け会社の見解に依存したことは一度もないと付け加えた。

欧州での営業利益が多い上場企業

(利益額・億円、かっこ内は営業利益、売上高の割合(%))(1位国際・帝石は中東アフリカが多いので除外)

  • 2位 アステラス製薬 439(25.0、24.9)
  • 3位 武田薬品 309(4.3、8.3)
  • 4位 リコー 302(45.9、18.2)
  • 5位 オリンパス 222(26.6、18.0)
  • 6位 ダイキン 206(47.8、21.3)
  • 7位 東芝 206(18.4、8.4)
  • 8位 任天堂 180(5.1、19.9)
  • 9位 出光 140(31.7、2.1)
  • 10位 マキタ 129(54.4、32.9)

参考資料

関連項目